教誨師
主演 大杉漣
公開年 2018年
監督 佐向大
おススメ ★★★★★
あらすじ
受刑者の道徳心の育成や心の救済を行う教誨師の中でも死刑囚専門の牧師・佐伯(大杉漣)は、独房で孤独な生活を送る死刑囚たちの良き理解者だった。6人の死刑囚たちに寄り添い対話を重ねる中、自分の思いがしっかりと届いているのか、彼らを安らかな死へと導くことは正しいことなのかと葛藤し、自身も過去と向き合う。
感想
観る人を選ぶ映画。合わない人は本当にしんどいと思います。
教誨師、という職業は聞きかじり程度には知っていました。刑務所内での心理安定のために、宗教的な希望によって収監された人に対する面談をする、という職業であり、「人と対話する」ということがどのような描かれ方をするのか、というところが気になっていました。ところが、上映館が少ない。実際、私の近隣でも上映されていなくて、プレミアムシネマでの1日上映を逃さないように見に行きました。
冒頭から、面談の場面が繰り返されます。6人の死刑囚を順番に、何回も。面接は2~3週間おきに1回程度を考えると、1回の面接ごとに一か月進む、という感じでした。この繰り返しが、単調と思った人は多分最後まで見れないと思います。私の入った上映回でも、半分くらいがここで居眠りしてたように思います。
6人の死刑囚が何をして死刑を宣告されたかは、具体的に描かれません。何かをしてはいったのだろう、という感じなのですが、現実社会で起きた事件に似たような配役をしているので、なんとなくこんな事件を起こしたのだろう、ということがわかります。
私が見ていてこうかな、と思ったのをまとめてみますと、
何も答えない鈴木・・・長崎ストーカー事件
やくざの組長吉田・・・前橋市スナック銃乱射事件
関西のおばちゃん野口・・・和歌山カレー毒物事件
大量殺人者高宮・・・相模原障害者施設殺傷事件
ホームレスの老人進藤、気弱い布団屋小川の件はちょっと思い当たりませんでした。
実際の事件と映画は全く関係がありませんので、あくまで私見でこれがイメージなのかな、というものを挙げてみました。幕中にも、会話の端々で自分が犯した罪が語られる場面があるので、事件をイメージしなくても「何をしたのか」はわかります。
主人公佐伯が、死刑囚と対峙して会話を重ねていくうちに、自分の心の中に気づいていく「自己覚知」のシーンもあり、非常に印象的でした。自分のことを相手に話すことのできる「自己開示」なども、死刑囚との対話を通じて信頼関係を醸成していく場面や、佐伯の感情の高ぶりによって逆転移が起きてしまう場面も、見ていて考えさせられるものでした。
他者を死に追いやっての、死刑という刑罰をうけた死刑囚が、自らの死が迫るときをどのように描くのか、それは見ていただいて考えていただくほうがいいと思います。
この作品は、いろいろなところで視覚効果をつかっているな、と感じました。
ひとつは、死刑囚を撮影するときは固定カメラで画面が固定されているのですが、主人公佐伯を移すときは、手持ちのカメラで多少のブレがあります。このぶれが、佐伯のこころの揺れとあっていたり、映像の効果としてでているな、と感じました。
また、冒頭から終盤まで「4:3」の画面で流れていきます。最後の最後で「16:9」の画面割に変わります。これが何を意味するのか。最後の場面で何があって、画面が広がるのか。観客への問いかけが広がるシーンと映像が広がるシーンがあっていて、見事だと思いました。
非常に観る人を選ぶ映画だと思います。ですが、観て損はないと思います。この作品以降、大杉漣さんの作品を見ることができないのは非常に悔やまれるところでありますが、最後の作品として本当に素晴らしいと思います。是非。