オゾンとコロナウイルス
新型コロナウイルスに対する対策に、まだまだ頭を悩ませているところではありますが、ちょっとここ最近あったことについて書いてみたいと思います。
1 コロナの情報
世間一般ではコロナ対応の消毒方法など、様々な情報が飛び交っています。
特に次亜塩素酸水については、「次亜塩素酸ナトリウム水」を市役所等が「アルコールの代用として使用できる」との情報が先に出たこともあり、似た名称の「次亜塩素酸水」を代用として売り込む、コロナウイルスについても効果がある、というような触れ込みで世の中を駆け巡りました。
仕事柄感染対策のため消毒薬を探し求めていました。
アルコール消毒液の入手がほぼ不可能になった状況もあり、市役所等も一時期は「次亜塩素酸水」を配布したりしていました。そこに、ある業者から「次亜塩素酸水精製器」の売り込みがあり、感染対策として市役所からの補助金も出る、ということで購入に踏み切りました。
見積もり→契約→納品→設置後の事後申請、ということだったので、すべてが終わってから、市役所に補助金の申請をしたところ、
「次亜塩素酸水のコロナウイルスに対する効能は、現在の時点で有用と証明されていないため、補助金の支給はしない」
との通知がでました。当然補助金を原資に支払いを計画していたので、支払いはストップせざるをえませんでした。
これには納入した業者もどうしたもんかと頭を抱えていましたが、市役所の担当者を交えながらの協議した結果、ある程度の落としどころということで、業者との折半、というところでいったん落ち着きました。
次亜塩素酸水については、「コロナには効果がないのではないか」という情報は、薬剤師などからすれば常識だったようで、提携先からの情報提供などはあったのですが、目先の業者の情報にとびついてしまった、こちらの落ち度もありました。
さて、そんななか。コロナ対策のつぎの売り込みが来ました。
2 コロナとオゾン
コロナに対してはオゾンが効果がある。
というものです。
オゾン発生器を購入しませんか、という売り込みが連日電話、メール、ファックスで送られてくるようになりました。
どこのメーカーも、
空気中に発生させるだけでコロナを不活性化させることができる
という触れ込みです。
しかも、この情報には、なんと根拠となるソース付きでした。
感染防止に期待高まる 「オゾン」が新型コロナの感染力なくす 奈良県立医大などが世界で初めて確認 【ABCニュースR2.5.15】www.asahi.co.jp
このABCニュースをつけている業者もありましたし、「オゾンがコロナに効果あり!奈良県立医大が証明!」と書いてあるメーカーもありました。
当然上司はこれに飛びつきます。
「次はオゾンだ!」ってなりますよね、わかります。
このABCニュースをみると、
除菌効果のある物質「オゾン」が、新型コロナの感染防止に役立つことを世界で初めて実証したと、奈良県立医科大学などが発表しました。
矢野教授らによりますと、実験室のオゾン発生器で作り出した一定の濃度のオゾンに、新型コロナウイルスを55分間にわたってさらしたところ、感染力がほぼなくなったことを確認したということです。こうした効果の実証は世界で初めてといいます。現在、新型コロナの消毒はアルコールや次亜塩素酸ナトリウムで拭き取る方法が主流ですが、矢野教授らはその補足としてオゾンの気体を吹きかけて使えば、労力を減らし効率的な消毒ができるとみています。将来的には病院や診療室で広く応用できると期待しています。
と報道されています。この文章だけを読むと、オゾン発生器で作成したオゾンはコロナウイルスの不活性化に効果があるものと読めます。
さて、これだけで50万円もするオゾン発生器を購入するに踏み切れるでしょうか。
3 オゾンについて調べてみた
踏み切れてしまうのですね。わが社は。
ニュースでも出ているのだから当然大丈夫、とばかりに何社からも見積もりを取り始めました。業者の営業さんも頻繁に来所されてます。
見積もりと資料が回ってきたので、いちどきちんと調べてみよう、と取り組んでみました。
まずは奈良県立医科大学のプレスリリースを読んでみることにしました。
オゾンによる新型コロナウイルス不活化を確認 | 奈良県立医科大学
興味のある方はこのプレスリリースを読んでみてください。
たしかに、オゾンをコロナウイルスに噴霧することで不活性化する、との発表がなされています。
研究成果
1.CT値330(オゾン濃度6ppmで55分曝露)では、1/1,000~1/10,000まで不活化。
2.CT値 60(オゾン濃度1ppmで60分曝露)では、1/10~1/100まで不活化。
ここで、気になったのがオゾン濃度6ppm、1ppmという濃度です。実験状況の写真も際されていますが、密閉された狭い実験箱の中での状況であることもうかがえます。
このオゾン濃度6ppm、1ppmという数字がどのようなものであるのかを調べてみることにしました。
4 オゾンの人体への影響
まず人体への許容基準を検索してみると、日本産業衛生学会の有害物質の許容基準、にたどりつきました。
日本産業衛生学会 - 日本産業衛生学会 - 許容濃度の勧告について - -
ここの表Ⅰ-1、許容基準の濃度、オゾンの項目では、
オゾン 許容濃度 0.1ppm
とあります。人体に対して使用していい限界は0.1ppm、ということになります。
では、奈良県立医科大学が発表した1ppmや6ppmはどんな値なのか。
調べを進めていくうちに、『オゾン処理報告書』として日本水道協会が発表したデータにたどり着きました。
オゾン濃度(ppm) 影響・作用等
0.01~0.02 :臭気を感じる(やがて慣れる)。
0.1 :強い臭気、鼻・のどに刺激を感じる。
0.2~0.5 :3~6時間で視覚低下の症状が出る。
0.5 :明らかに上部気道に刺激を感じる。
1~2 :2時間で頭痛、胸部痛、上部気道の渇きと咳が起こる。曝露をくり返すと慢性中毒になる。
5~10 :脈拍増加、肺水腫の症状がでる。
15~20 :小動物は2時間以内に死亡する。
50 :人間も1時間で生命が危険になる。
オゾン処理報告書 日本水道協会 昭和59年8月 40頁より
これによると、
1ppmであっても人体に影響があり、
6ppmでは著しい悪影響がでるということが記されています。
5 あくまで私の意見としては
これらの結果をもとにした、あくまで私の意見としては、
市販されているオゾン発生器のレベルでは、コロナウイルスの感染防止に対しては効果がない
との結論に至りました。
オゾン発生器の発生濃度としてうたっているものは、
「1μppmのオゾンを発生!」とか、「0.01ppmのオゾン環境を生成!」などとうたっているものがありましたが、奈良県立医科大学の結果からみても効果はないのかな、と思いました。
また、ABCニュースの画像を見ても、完全な防護服を着用しての密閉空間での実験、という様子でもあり、限られた特殊な環境下での使用に限り、オゾンはコロナに対して効果を発揮する、ということが言えると思います。
ニュースの文面だけをみると、一般的な生活の中でも効果を期待できるような感じがしますが、実際のところ難しい…といわざるをえないのかな、と。
このことを業者の営業さんに聞いてみたところ、どの業者さんも奈良県立医科大学の発表については知っていましたが、プレスリリースを読んだ営業さんは一人もいませんでした。
これらの結果、うちの事業所としてはオゾン発生器の購入は見送りとなりました。
コロナウイルス感染防止の情報は、日々流れてきますが、どれが正しくてどれが誤っているのか、見極める目を養っていかないとだめだな、と痛感しました。