ヒッチハイカー
久しぶりに裏道を走っていたら、「◯◯方面」と書いたスケッチブックを持った青年が。
とりあえず車を止めて手招きして話を聴くと、かれこれ2時間はここにいるとのこと。
いくらインターに近いとはいえ、田んぼの脇道で九州方面に行く車はとまらんわな。どうしたらいいか途方にくれているのも可哀想なんで、下道で隣の市に向かう予定を、ひと区間山陽道にのりその間にあるSAで降ろしてあげることに。
ものすごく恐縮して辞退するのを、もとの道にいたらいつまでたっても車なんか止まらない、と説得して乗せていった。
車中で話を聞くと、東京生まれの東京育ち、音大に在学中とのこと。あまり人と関わることが苦手で、思い切って旅にでたら何か変わるのかな、と出発したそうだ。物もほとんど持っていないようで、多分本当に思いつきで出てきたんじゃないのかな、というような感じ。
それでも音大でミュージカルを専攻しているだけあって、なかなかのイケメン。今日までの旅の楽しさとか人との出会いを楽しそうに語っていた。
いい笑顔だったな。
少し大きめのSAで彼をおろし、旅の無事を祈りつつ別れた。
…これですめば、ただのヒッチハイカーとの話なのだが。
隣の市で用事をすまし、下道で帰路につくと、かすかな携帯の着信音。
あれ、俺の携帯かな?
と確認するも、鳴ってない。
後部座席に、ヒッチハイカーの忘れた携帯電話。
どうしよっかなー、これ。
と悩むも、とりあえず画面に映っている番号にかけてみる。
トゥルルルル…
ガチャ
ブロロロロロロロロロ〜
ブイーイーン
の音の向こうにかすかな「もしもし」の声。
「ヒッチハイカーの携帯にお電話くれました?」
「そーです、いま拾って広島にむかっ」
ブロロロロロロロロロ〜
ブイーイーン
「で……を…け……あ…」
「もしもーし!とりあえず家に送りますので住所教えてくださーい」
「わ…な………か…けん…」
「聞き取れないのでSMSで送ってくださーい」
「………よ」
がちゃん、ツーツーツー
さてどうなるか気をもんだのですが、その後無事に住所がメールで届きました。
ちょっとした縁とトラブルでしたが、ぜーったいに交わることのない人との接点を一瞬でも交差したことは、今後何かあるかもしれないし、ないかもしれないし。それはそれでまた思い出のひとつとして楽しめたらいいのかな。